
―なぜ小選挙区で落選した候補者が比例代表で敗者復活できるのか―

目次
1 衆議院議員の選挙制度
2 重複立候補の許容と比例代表による復活
⑴公職選挙法の規定
⑵比例復活のための条件
3 比例代表で当選した議員の制約
4 憲法論からの分析
⑴憲法の規定
⑵民主主義についての考え方
⑶「全国民の代表」(憲法第43条第1項)の内容
⑷選挙制度
5 比例復活の是非(私見)
1 衆議院議員の選挙制度
現行の衆議院議員選挙(総選挙)では、特定の候補者を選ぶ「小選挙区」と所属政党を選ぶ「比例代表」を掛け合わせた「小選挙区比例代表並立制」を採用している。小選挙区制では、選挙区内で一人の候補者を選ぶという簡潔さの一方で、当選者以外に投票した有権者の民意を捨てることになるため(死票)、その手当をするために比例代表制を並立して採用していると説明される。
2 重複立候補の許容と比例代表による復活
⑴ 公職選挙法の規定
【第87条第1項】
一つの選挙において公職の候補者となつた者は、同時に他の選挙における公職の候補者となることができない。
→重複立候補の禁止(原則)
【第86条の2第4項】
第1項第1号または第2号に該当する政党その他の政治団体は第87条第1項(重複立候補の禁止)の規定にかかわらず、当該衆議院(比例代表選出)議員の選挙と同時に行われる衆議院(小選挙区選出)議員の選挙における当該政党の届出に係る当該衆議院(比例代表選出)議員の選挙区の区域内にある衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区における候補者を当該衆議院(比例代表選出)議員の選挙において、当該政党の届出に係る衆議院名簿の登載者とすることができる。
→衆議院議員選挙は、小選挙区と比例代表の重複立候補をすることができる(例外)
※なお、あくまで、候補者が同時に2つの選挙に立候補し、小選挙区では落選し、比例代表では当選したというだけなので厳密には「比例復活」という表現は不正確である。ただし、小選挙区で敗北した人物が比例代表で当選し議員資格を得ることになるため、人物基準でみると現象としては「復活」にみえるのも事実である。
⑵ 比例復活のための条件
①衆議院議員選挙であること
②下記のいずれかの要件を満たす政党に所属していること
・当該政党に所属する衆議院議員又は参議院議員が5人以上
・直近の衆議院議員総選挙における小選挙区選出議員の選挙若しくは比例代表選出議員の選挙、参議院議員通常選挙における比例代表選出議員の選挙若しくは選挙区選出議員における当該政党の得票総数が当該選挙における有効投票総数の2/100以上
③小選挙区と比例代表で重複立候補(同一ブロック内)していること
④候補者が小選挙区で落選したこと・所属政党が比例代表で議席を獲得したこと
⑤立候補した小選挙区の当選者の得票数の1/10の得票があること
⑥小選挙区の惜敗率(落選者の得票数÷当選者の得票数×100)の順位が上の候補者から比例当選が可能
重複立候補による比例復活が許容されている理由として、民意が反映されない死票を減らして多様な民意を抽出する、比例復活の余地をあたえることで小選挙区の候補者を増やし有権者に選択肢を与えるというものがある。
3 比例当選した議員の制約
比例当選した議員が所属政党を離党し、比例当選した選挙の際に存在した他の政党に移ると議席を喪失(議員資格がなくなる)する(公選法99条の2)。
しかし、比例当選した議員が離党して無所属になること、選挙時に存在しない新党に移ることは議席喪失の対象外となる。また、国会は政党とは異なる「会派」単位で活動するが、会派「○○党・無所属の会」であれば、比例選出で離党した議員が当該会派に所属してもあくまで政党としては「無所属」のままなので議席喪失にはならない。すなわち、当該規定には抜け道が多く、制限としての機能は弱い。
4 憲法論からの分析
⑴ 憲法の規定
【憲法第43条第1項】
両議員は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
【憲法第47条】
選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
→公職選挙法により具体化(現行法は小選挙区比例代表並立制を採用)
⑵ 民主主義についての考え方
●代表民主制(間接民主制)
A説:純粋代表制
国民は、議員を選挙で選出するにとどまり、選挙後はその役割を終える。議員は、選挙後、選挙区の意思に拘束されることなく自由に行動でき、国民に対して法的責任を負わず、罷免されることもない
B説:半代表制
国民は、議員を選挙で選出するにとどまり、選挙後はその役割を終える。議員は、法的には自由委任であるが、忠実に国民の意思を反映すべき事実上の拘束を受ける
●半直接制
原則は代表制だが、国民が立法・政治に直接介入できる法的手段を認める。例えば、国民投票や国民発案権。
●直接民主制
国民が国家行為の定立に直接参加し、定立に際して最終決定権を有する。
⑶ 「全国民の代表」(憲法第43条第1項)の内容
●政治的代表説
国民は議員を通じて行動する。議員は国民の意思を反映させる政治的責任を負う。議員は特定の選出母体の代表ではなく全国民の代表であって、活動にあたって国民の指図に拘束されず、独立して自己の良心・信念に基づいて発言・評決できる(自由委任)。国民の意思に反して行動しても法的な不利益を受けない(次の選挙で政治的な不利益(落選)を受けるにとどまる)
●社会学的代表説
議員は国民の意思を忠実に反映させるべき事実上の義務を負う。主権者国民の意思と国会の意思との事実上の近似性が求められる(忠実な民意の反映)。
⑷ 選挙制度
大選挙区制(中選挙区制)
→選挙区ごとに2人以上の議員を選出する
小選挙区制
→選挙区ごとに1人の議員を選出する
比例代表制
→各政党の得票数に応じて、議席を配分する
5 比例復活の是非(私見)
議論の前提として、現行の公職選挙法で認められている以上、重複立候補による比例復活に違法性の問題は生じない。また、選挙制度に正解はないと言われるように、どのような選挙制度であってもどこかを優先(メリット)すればどこかが犠牲(デメリット)となる二律背反の性質があるため、「完璧な選挙制度」は存在せず、ある程度の妥協の下で制度設計せざるを得ない。
しかし、小選挙区で示された落選という有権者の判断(民意)を受けた者が、比例代表で当選することに「違和感」を覚えるのは、小選挙区で投票した有権者をはじめとする主権者国民の感情として理解できないものではない。
比例代表は死票を減らすことで民意を幅広くすくいあげ、小規模な政党にも議席獲得の機会を与える性格があるため、多種多様な民意を反映する仕組みとして比例代表制自体に大きな問題があるとまではいえない。上記の「違和感」の根底にあるのは、比例代表の運用方法であって、核心は小選挙区との「重複立候補」の是非であると解する。
選挙制度は法律をもって定めることになっており(憲法第47条)、公職選挙法により具体化されている。すなわち、選挙の制度設計は国会における立法で可能なのであるから、重複立候補を禁止し、立候補できるのは選挙区のみ・比例代表のみとして重複立候補を認めない選択も(選挙制度は異なるが参議院選挙では重複立候補が認められていない)、中選挙区制を採用する選択も(現行制度に変更される背景となった中選挙区制のデメリットについては、インターネットの活用等といった修正を加えればある程度は希釈可能と思料する)できる。重複立候補を許容しない方向性に対しては、それぞれの選挙を独立させると、各政党にとって候補者の確保が難しくなるという意見もあろうが、小選挙区と比例代表が同じ顔触れではなく全く異なる候補者となれば、より幅広い候補者の意見(民意)が国民の代表機関である国会に反映されることになるため、むしろ、現実社会における民意をなるべく忠実に国会に反映させることができるようになるのではないだろうか(社会学的代表説)。そして、それは比例復活によって「汲み上げる民意」よりも多いのではなかろうか。
なにより、「民意の反映」という名のもとに国会議員の身分保障のため自らの当選確率をあげる手段として重複立候補による比例復活を利用しているのであれば大きな問題である。候補者個人より広い枠組みが必要となる比例代表の制度上、政党を基準とすることはやむを得ないが、比例代表を利用する資格が政党にあることと小選挙区との重複立候補を認めることは元来別個の問題である。
重複立候補により小選挙区で敗れた者が比例代表で敗者復活して議員の資格を得られる制度が、実体として国会の限られた議席を既存政党がより多く確保できる仕組みとして作用しているのではないだろうか。この点、当選者の得票数1/10要件や惜敗率によって小選挙区で示された民意となるべく齟齬が生じないように適正に手当されているという反論もあろうが、そもそも一方の選挙で落選した人物(民意で否定された人物)が、もう一方の選挙で当選し、議員資格を得ることへの有権者の根本的な「違和感」を解消できるような論理ではない。
現行の公職選挙法は、原則として重複立候補を禁止していながら、衆議院の比例代表に限って重複立候補を例外として認める。公職選挙法を改正するのは、その影響を直接受けることになる国会議員であるため(さらに言えば、与野党関係なく国会の過半数以上の合意を得る必要があるため)、特に国会議員の地位に関わるルールの変更には消極的な姿勢になるのであろう。しかしながら、国民の付託を受けた国民代表として選出される以上、我が身ではなく、国民の側を向いた議論を深めるべきではないだろうか。