
―発信者情報開示のための4ステップ―

目次
1 発信者情報開示の流れ
2 投稿内容を保存すること(証拠保全)
3 投稿時点から可及的速やかに行動に移ること
4 投稿が自身に向けられたことが分かること(同定可能性)
5「権利侵害の明白性」があること
6 まとめ
1 発信者情報開示請求の流れ
- インターネットにおける誹謗中傷の投稿
- 法律相談
- A 発信者情報開示請求の手続
- 第1段階
コンテンツプロバイダ(サイト管理者)に対する開示請求
【コンテンツプロバイダ:掲示板やSNSを運営する事業者】
a.任意の開示請求
b.発信者情報開示仮処分の申立て
▶投稿にかかるIPアドレスを取得
第2段階
アクセスプロバイダ(接続プロバイダ)に対する開示請求
【アクセスプロバイダ:インターネットの通信事業者】
a.任意の開示請求
b.発信者情報開示請求訴訟の提起
▶投稿者の氏名・住所・電話番号等の発信者情報を取得
or
- B 発信者情報開示命令の手続
- ①コンテンツプロバイダに対するログの提供命令
コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令
②アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令
▶投稿者の氏名・住所・電話番号等の発信者情報を取得
- 投稿者(発信者)の特定
- 投稿者に対する損害賠償請求
- ①交渉
②裁判の提起
2 投稿内容を保存すること(証拠保全)
投稿者を特定するための発信者情報開示の手続を利用するには、開示を求める請求者において、「権利侵害」性を立証する必要があります。
自身を誹謗中傷していると思われる投稿を発見したときは、投稿内容全体を画面に表示させた状態でスクリーンショットをすることで証拠化しましょう。このとき、投稿された場所を特定するため「該当ページのURL」がすべて画像内に写った状態にすること、撮影時を特定するため「スクリーンショットをした日時」が画像内に入るようにすることが重要です。
複数の投稿がある場合は、それぞれ上記の要領で証拠化するようにしてください。投稿サイトによってはURLを表示させる方法が分かりづらいものもありますので、自分で証拠化することが難しい場合は、投稿が削除される前に弁護士へご相談ください。
3 投稿時点から可及的速やかに行動に移ること
アクセスプロバイダのログ(データ)の保存期間は、プロバイダごとに異なりますが、通常は3ヶ月から6ヶ月とされることが多いです。当該期間を徒過すると、裁判所で開示が認められたとしても、開示可能な発信者情報がないという事態となり、手続が無意味となってしまいますので、投稿を把握したときは、なるべく速やかに行動すべきといえます。
発信者情報開示の流れにある「発信者情報開示請求」では、2段階の手続が必要となり、アクセスプロバイダに対する開示請求前にはログ保存の仮処分をするため、当該手続を保存期間内に済ませる必要があります。「発信者情報開示命令」では、申立後に発信者情報の消去禁止命令を発することになるため、当該命令が保存期間内になされる必要があります。
「発信者情報開示請求」では、1段階目のコンテンツプロバイダに対する開示請求まで、「発信者情報開示命令」では申立てまでを、最短の保存期間では3ヶ月内に済ませなければならないため、自身を誹謗中傷する内容の投稿がされたときから、2週間から1ヶ月以内には、発信者情報開示のための手続に移行できる速度感で進めていく必要があります。スケジュールを短縮するためには、投稿から弁護士への相談・依頼までの時間を短くする必要があるため、投稿を発見し、開示請求を希望するのであればすぐに行動に移りましょう。
4 投稿が自身に向けられたものであることが分かること(同定可能性)
裁判所が発信者情報の開示を認めるためには、「同定可能性」と「権利侵害の明白性」を請求する側で主張立証する必要があります。
同定可能性とは、投稿が自分に対して行われたものであると他人からみても理解できることをいいます。これは「一般の閲覧者の普通の注意と読み方」を基準に判断されます。基本的には、投稿自体から読み取れることが必要ですが、当該投稿のあるスレッド内の他の投稿や投稿に至るまでの文脈に照らして、「その人」のことを指していると理解できれば同定可能性が認められることになります。
5 「権利侵害の明白性」があること
「権利侵害」とは、投稿によって、名誉権や肖像権、プライバシーといった権利を侵害されること、「明白性」とは、侵害行為に違法性阻却事由が認められないことをいいます。
投稿内容を分析すると、一定の事実を述べる「事実適示型」と投稿者の感想を述べる「意見論評型」があります。事実適示型については、対象者の社会的評価を低下させる場合は名誉毀損となり、私的な情報を開示する場合はプライバシー侵害となります。また、投稿が文字表現ではなく開示を許容していない対象者の写真の場合は、肖像権侵害となります。
憲法上「表現の自由」が保障されていることとの兼ね合いから、純粋な意見にとどまる表現については最大限尊重すべきものと考えますので、「意見論評型」の場合は開示の難易度が高いといえます。そのため、請求者としては、「事実」を述べる投稿について、開示請求を考えるべきでしょう。
名誉毀損を例に挙げると、投稿内容にある表現が対象者の社会的評価を低下させるものであれば名誉毀損に該当し、「権利侵害」が認められます。名誉毀損は、①投稿した内容が公共の利害に関する事実であって、②投稿の目的が専ら公益を図ることにあり、③適示された事実の重要部分が真実であるときは、違法性がないとされます(違法性阻却事由)。そのため、請求者は、投稿された事実が「真実ではない」ことを積極的に主張立証することで、「明白性」の要件を満たすことができます。
投稿内容が権利侵害に該当するか否か、反真実をどのように立証すべきかについては、専門的な知見に基づく判断が必要となるため、自身を誹謗中傷する内容の投稿について、発信者情報の開示を求められるものかどうかを弁護士に相談して確認した方がよいでしょう。
6 まとめ
上記の要件を満たし、裁判所が発信者情報の開示を認めた場合に投稿者を特定することができます。特定した投稿者に対し、権利侵害を理由とする損害賠償請求を行うことで被害を回復するというのが、発信者情報開示請求の全貌となります。
一般的な損害賠償請求は、請求する相手方が分かった状態で開始しますが、インターネット上での権利侵害では、損害賠償請求前に相手方が誰であるかを特定する手続を必要とする点が特有の部分です。
実際に損害賠償請求を行うまでの道程が長く、また、投稿内容によっては最終的に得られる賠償額よりも開示手続に要する費用の方が大きくなるということもありますので、「開示請求で投稿者を特定するのか」「開示ではなく投稿の削除にとどめるのか」「賠償以外の条件を呑ませることに価値を見出すのか(謝罪文の投稿や投稿禁止など)」をよく検討の上、行動に移るかどうかを決定した方がよいでしょう。
一方で、ログの保存期間という制限時間があるため、投稿を発見した後、自身の中に開示請求の選択肢がある状態であれば、まずは、弁護士に相談し、開示請求ができるかどうか、開示が認められるとして賠償額がどれくらいになるかといった部分を確認することも検討しましょう。